ソース:首相官邸のWebより
本日は、このような機会を与えていただき、感謝しています。
世界経済を動かす「ウォール街」。
この名前を聞くと、マイケル・ダグラス演じるゴードン・ゲッコーを思い出します。
1987年の第一作では、「日経平均(Nikkei Index)」という言葉が出てきます。
日本のビジネスマンも登場し、日本経済がジャガーノートであるかに思われていた時代を彷彿とさせるものでした。
しかし、2010年の第二作では、出てくる投資家は中国人、ゴードンが財をなすのはウォール街ではなくロンドン。
日本は、その不在においてのみ目立ちます。「Money never sleeps」のタイトルさながらに、お金は儲かるところに流れる、その原理は極めてシビアです。
たしかに、日本は、バブルが崩壊した後、90年代から20年近くデフレに苦しみ、経済は低迷してきました。
しかし、今日は、皆さんに、「日本がもう一度儲かる国になる」、23年の時を経てゴードンが金融界にカムバックしたように、「Japan is back」だということをお話しするためにやってきました。
さて、明日は、マリアノ・リベラ投手にとって、ヤンキースタジアムでの最終試合です。
ニューヨーク市民にとって、永遠に記憶に残るこの日に、同じ場所で時間を共有できることは、大変幸せなことです。
切れのするどいカットボール。43歳になる今でも、あの一球だけで、どんなバッターも手が出ない。
世界一のクローザーとは、そういうものなのだと思います。
日本が復活するシナリオも、奇を衒う必要はまったくありません。
リベラのカットボールのように、日本が本来持つポテンシャルを、思う存分発揮しさえすれば、復活できる。そう考えています。
身近なものからご説明しましょう。寿司です。ニューヨークには、本格的な寿司バーがたくさんあります。
コメと寿司ネタ、わさびとしょうゆ、そして日本酒の絶妙なコンビネーションを体験した方もいらっしゃるでしょう。
全部があわさって素晴らしいハーモニーが生まれる。
どれかが欠けても物足りない。
日本食は、繊細な「システム」です。
私は、月に一度は、海外に出かけます。
出来る限り日本のビジネスリーダーたちを連れ、日本のポテンシャルを売り込んでいます。
特に日本食を持参し、実際に食べてもらいますが、寿司も、てんぷらも、カウンターはいつも大行列です。
そもそも寿司もてんぷらも、200年以上前、今の東京である江戸の庶民たちが、道端の屋台で食べていたファーストフードでした。
私は、ここニューヨークでも、いつか、40丁目と5番街の交差点にあるホットドッグ屋台の隣に、寿司やてんぷらの屋台が並ぶ日を、夢見ています。
日本の鉄道も、世界に誇る「システム」です。
「新幹線」は、時速205マイルのハイスピードですが、静かで快適。
そして、1964年10月開業以来、一度も、死亡者はおろか、けが人を一人も出したことがない安全性の高さで、世界中から引き合いがあります。
日本の新幹線オペレーターには、その次、超電導リニア技術による新しい鉄道システムがあります。
すでに日本国内では、世界最高の時速311マイルで、乗客を乗せて走る実験を重ねています。
この技術を活用すれば、ニューヨークとワシントンDCは、1時間以内で結ばれます。
毎年44万3千ガロンもの「ガソリン」を浪費させるだけでなく、68万2千もの「時間」を浪費して皆さんをイライラさせる、あの「道路渋滞」からも解消されます。飛行機や自動車と比べて、時間もCO2もカットできる。まさに「夢の技術」です。
日本では、今、東京と名古屋間で開業に向けた準備が進んでいます。
その前に、まずは、ボルチモアとワシントンDCをつないでしまいましょう。私から、すでにオバマ大統領にも提案しています。
皆さんは、シェールガス・シェールオイルで強い経済力を持ち、さらに化石燃料が安くなる、ラッキーな国にお住みです。
日本はそうはいきません。そうはいかないからこそ、イノベーションです。
日本のエネルギー効率は、第四次中東戦争が発生した1973年と比べ、約40%改善しました。
GDP千ドルあたりのエネルギー消費は、石油換算で、アメリカでは0.17トンですが、日本では0.11トンしかありません。
中国は0.6トンですから、日本の省エネ技術の高さは、群を抜いています。
ここに、日本の成長機会があり、皆さんの投資機会があります。
自動車向けのリチウムイオン電池は、世界の7割が日本製です。
アメリカで人気のテスラモーターの電気自動車も、電池は日本製。
次世代の自動車は、「インテル・インサイド」ならぬ、「ジャパン・インサイド」なんです。
高い効率を誇る日本のLED照明。白熱電球と比べ、電力消費は5分の1以下です。
ある試算によれば、65億個にのぼる世界の白熱電球需要を、すべて日本のLED電球に置き換えれば、最新の原発200基分以上の省エネとなります。
そして、日本は、原発の安全技術で、これからも世界に貢献していきます。
放棄することはありません。福島の事故を乗り越えて、世界最高水準の安全性で、世界に貢献していく責務があると考えます。
その福島の海では、未来の発電技術が開花しようとしています。「浮体式」の洋上風力発電技術です。
現在、2メガワットクラスのものしか世界には存在しません。
しかし、私たちは、今回、福島沖で7メガワットクラスに挑戦します。
高さ200メートルの巨大な風車が、波の揺れにも耐えて発電する。
世界に名だたる鉄鋼メーカー、重工メーカー、電機メーカーなどが参加する、日本の総力を結集する一大プロジェクトとなります。
日本のエネルギー技術は、ポテンシャルの塊です。
だからこそ、私は、電力システム改革を進めます。
こうしたダイナミックなイノベーションを、もっと加速していくために、電力自由化を成し遂げて、日本のエネルギー市場を大転換していきます。
新たなチャレンジには、さまざまな規制が立ちはだかります。
例えば、燃料電池の開発実証には、多くの規制をクリアしなければならない。
これでは、創意工夫はできません。
私は、フロンティア技術を実証したい企業には、独自に安全を確保する措置を講ずれば、規制をゼロにする新しい仕組みをつくろうと考えています。
昔ながらの頭の固い大企業は、奮起が必要かもしれません。
私は、日本を、アメリカのようにベンチャー精神のあふれる、「起業大国」にしていきたいと考えています。
規制改革こそが、すべての突破口になると考えています。
「本当に改革ができるのか?」と懐疑的な方もいるかもしれません。
たしかに、日本は、この数年間「決められない政治」の代表でありました。
しかし、この7月、日本国民は大きな選択をしました。
「決められない政治」を生み出してきた、衆議院・参議院間の「ねじれ」を解消する選択です。
私が率いる連立与党が、衆参両院で多数を取りました。
政権与党のリーダーとして、私は、必ずや、言ったことは実行していきます。
「実行なくして成長なし」。
アクションこそが、私の成長戦略です。
私が、日本を出発する前に、ある野球記録が塗り替えられました。
1964年に、王貞治という選手が作ったシーズン55本のホームラン記録が、カリブ海出身のバレンティン選手によって更新されたのです。
ここニューヨークでは、イチロー選手が日米4000本安打という偉大な記録をつくりました。
日本で海外の選手が活躍し、米国で日本の選手が活躍する。もはや国境や国籍にこだわる時代は過ぎ去りました。
世界の成長センターであるアジア・太平洋。
その中にあって、日本とアメリカは、自由、基本的人権、法の支配といった価値観を共有し、共に経済発展してきました。
その両国が、TPPをつくるのは、歴史の必然です。
年内の交渉妥結に向けて、日米でリードしていかなければなりません。
自由で、創造力に満ち溢れる大きな市場を、米国とともに、このアジア・太平洋に築き上げたい。
私は、そう考えています。
さて、私は、ハフィントン・ポストのブロガーもつとめております。
アリアナ・ハフィントンさんには明日もまたお目にかかる予定ですが、ストレートな語り口は彼女の魅力です。
そのアリアナさんが、かつてこう語ったそうです。
「もし、リーマンブラザーズが、リーマンブラザーズ&シスターズだったら、今も存続していたのではないか。」と。
男たちは、「睡眠時間が少ないことを自慢」し、「超多忙なことが、超生産的だ」と誤解している。
そのような男たちは、行く先で待ち構える「氷山」を見過ごしがちだ、と彼女は言うのです。
私も、男たちの一人として、また、総理就任以来、休む暇なく働いてきた者として、この言葉が身に沁みます。
この夏は、ハフィントンさんの言葉を胸に刻んで、しっかり休暇をとりました。
いずれにせよ、日本の中に眠っている、もう一つの大きなポテンシャル。
それは、女性の力です。
ここニューヨーク証券取引所の初の女性会員は、ミュリエル・シーバートさんです。
46年前の出来事でありました。ミッキーの言葉が頭をよぎります。
「アメリカの経済界は、女性役員こそが、人口の半分の男だけに頼っている日本やドイツに対抗する上で、強力な競争力向上の武器になることを気づくだろう」まさにその言葉を、身を持って証明し、アメリカにおける女性の活躍をリードしてきたミッキーが、先月お亡くなりになったと聞きました。
ご冥福をお祈りするとともに、これまでのパイオニアとしての活躍に、深い敬意を表したいと思います。
そして、「人口の半分の男だけに頼ったせいで」閉塞感に直面している日本を、私は、大きく転換してまいります。
日本には、まだまだ高い能力を持ちながら、結婚や出産を機に仕事を辞める女性がたくさんいます。
こうした女性たちが立ちあがれば、日本は力強く成長できる。そう信じます。
そのために、日本から、「待機児童」という言葉を一掃します。
2年間で20万人分、5年間で40万人分の保育の受け皿を、一気に整備します。
すでにこの夏の時点で、12万人分を整備する目途がつきました。
繰り返しになりますが、アクションこそ、アベノミクスです。
足元の日本経済は、極めて好調です。
私が政権をとる前の昨年7-9月期にマイナス成長であった日本経済は、今年に入って二期連続で年率3%以上のプラス成長となりました。
これは、大胆な金融緩和による単なる金融現象ではありません。
生産も、消費も、そしてようやく設備投資も、プラスになってきました。
長いデフレで縮こまっていた企業のマインドは、確実に変わってきています。
ここで成長戦略を実行し、先ほど述べた様々なポテンシャルを開花させていけば、日本を再び安定的な成長軌道に乗せることができる。
これが、私の「三本の矢」政策の基本的な考え方です。
日本に帰ったら、直ちに、成長戦略の次なる矢を放ちます。
投資を喚起するため、大胆な減税を断行します。
世界第三位の経済大国である日本が復活する。
これは、間違いなく、世界経済回復の大きなけん引役となります。
日本は、アメリカからたくさんの製品を輸入しています。
日本の消費回復は、確実にアメリカの輸出増大に寄与する。そのことを申し上げておきたいと思います。
ゴードン・ゲッコー風に申し上げれば、世界経済回復のためには、3語で十分です。
「Buy my Abenomics」ウォール街の皆様は、常に世界の半歩先を行く。
ですから、今がチャンスです。
先日、サンクトペテルブルグで、オバマ大統領からエールをもらい、その後23時間かけてブエノスアイレスに飛びました。
その結果、2020年のオリンピック・パラリンピックが、東京で開催されることとなりました。
49年前の東京オリンピックは、日本に高度成長時代をもたらしました。
日本は、再び、7年後に向けて、大いなる高揚感の中にあります。
あたかもそれは、ヤンキースタジアムにメタリカの「Enter Sandman」が鳴り響くがごとくです。
もう結果は明らかです。
偉大なるクローザー、リベラ投手の長年の活躍に最大の敬意を表しつつ、私のスピーチをおわりたいと思います。
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